南方軍政と軍票政策 RSSフィード
 

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87nagaikazunagaikazu   38  日銀のレポートからみた南方インフレ

 せっかくですので、前に紹介した日銀の報告から、当時の日銀が南方でのインフレーションに対してどのような危機感をもっていたのか、簡単に紹介しておきます。なお、原文はすべてカタカナ書きですが、読者の便宜を考え、ひらかなに直し、表記も現代風にあらためました。


A:「南方占領地経済対策ノ現状ニ就テ」日本銀行昭和18年10月15日

B:「南方ニ於ケルインフレーションノ問題」日本銀行昭和18年12月9

日本銀行調査局編『日本金融史史料 昭和編』第30巻、大蔵省印刷局1971年

です。

まずAから。この段階では、インフレーションへの危機感はまだ強くはありませんが、それでも、「通貨」の節において次のように指摘されています。

南方占領地通貨対策の目的とするところは、南方占領地に通貨制度を確立するとともに、通貨膨張を阻止して、その価値維持をはかり、以て南方占領地諸経済対策の円滑なる遂行を遺憾なからしむるにあり。各地域を通し一般に現地軍の経費支弁・開発資金放出・輸入途絶・対日物資輸送・ストック減少等々の理由に基き、占領後現在に至るまでの通貨膨張かなり顕著なるものあるのみならず、此の趨勢は今後も引き続き持続するものと認められる現状においては、南方占領地通貨対策として、なかんずくインフレ阻止は刻下の急務と思考せられ、これがためには財政・金融・物価・産業・交易・配給の各般にわたり、あらゆる措置を講ずる必要あるものと考えられる。

 つまり、本来南方占領地での通貨対策は通貨の膨張を阻止して、インフレをおこさないことを目的にしているのだが、占領後の現実から、現在までかなりの通貨膨張がみられ、さらにその勢いはとまりそうもなく、今後も持続するであろうというのが、この時点での日銀の現状認識でした。

 通貨膨張は避けられないから、インフレ阻止のためにあらゆる措置を講じる必要があると提言しているわけです。いうまでもなく ここでいう通貨膨張とは南発券の増発を意味します。

 日銀の試算では、フィリピン海軍管轄地区を除く南方占領地での通貨流通高は、占領直後で約10億ドル(ルピー・グルデン、以下同じ)、昭和17年末で12億8800万ドル、それが昭和18年6月末には17億1200万ドルに増加しました。増加率は占領直後に対して71%、前年末に対して32%にのぼります。

 また、昭和19年3月には、さらに22億4600万ドルに膨張すると見積もられています。これに海軍地区とフィリピンを加えると、総額27億ドルになる見込みとされています。これだけの通貨の膨張はさけられないわけです。

 また、物価騰貴については、こう記されています。

南方占領地における物価の騰勢は最近漸次激化の趨勢にあり。全地域を通じ一般に食料品は騰勢緩慢なるも、衣料品・日用品は騰勢乱調子にして殊に昭南シンガポール―永井注)及びビルマ奥地は他地域に比し昂騰率甚だしく、例えば石けん、マッチのごとき戦前に比し、十倍乃至二十倍に昂騰し、総平均指数にて五倍に達する状況なり。従来物価昂騰率比較的軽微なりしジャワにありても、上向歩調侮り難きものあるを観取せらる。

 シンガポールビルマでは戦前比で平均5倍近くに物価が上昇しており、比較的物価が安定していたジャワでもじりじりと上がりつつあると認識しています。十倍、二十倍は昂騰であるという認識です。

 それから3ヶ月後のレポートである.Bではインフレーション問題がより深刻にとらえられていることは、そのタイトルがズバリ「南方ニ於ケルインフレーションノ問題」であることが語っています。

 全体の流れはAと同じであり、占領後通貨の膨張がみられ、さらに今後もその趨勢をとどめることが難しいとの現状認識と物価昂騰の数値が示され、インフレの原因として

>> 

1.本邦への輸出超過(南方資源を日本へ輸出しているが、その見返りに日本から輸出するものが少ないので、物資不足をきたしている。また輸出代金は軍票・南発券で支払われるので、それだけ通貨が膨張する)

2.軍費調達額(要するに戦争遂行のために軍票・南発券を発行し、現地に投下されていることをさす。また、それにより物資が日本軍に吸収されるので、物資不足をきたす)

3.現地生産の不振(本国との関係が途絶したために、全般的に生産が低下したことをさす)

をあげています。インフレを引き起こした原因は占領にともなう軍票・南発券の増発と物資不足であるというのが、日銀のこの時点での認識であったわけです。

 そのあとインフレ対策をあげていますが、注意すべきは、その前に、「南方インフレーションの本邦に対する影響」のところで、こう述べている点です。

南方各地域における通貨膨張並に物価高の現況は既述のごとく顕著なるものあり。これが本邦の物資調達並に現地民生の上よりみて、影響甚大なるは申すまでもなきところなるが、これを本邦の物価に対する関係よりみれば、左記のごとく南方における所要資金は原則として現地において調達せしむることとし、又本邦対南方地域間の資金交流も原則として認めざる方針なるため、直接の影響は遮断せられおり。

 つまり、南方と内地の間には資金の移動が厳しく制限されているので、南方でインフレーションが起こっても、日本内地には影響が及ばないと言っているわけです。

 南発券は名目的には日本円とパーでリンクなのですが、実質的には交換性をまったくもたないのです。南発券の100ルピー日本円の100円ではありません。

 そうすると、次の問題は、戦争が終わった時点で、この膨れあがった南発券と日本円の交換性をどういう形で回復するかというところにしぼられるであろうことは、容易に推測できます。

 価値の低下した南発券をパーで日本円に交換すれば、はたしてどんなことになるか。

返信2007/06/09 21:31:07
  • 87日銀のレポートからみた南方インフレ nagaikazunagaikazu 2007/06/09 21:31:07
     せっかくですので、前に紹介した日銀の報告から、当時の日銀が南方でのインフレーションに対してどのような危機感をもっていたのか、簡単に紹介しておきます。なお、原文はすべてカタカナ書きですが、読者の便宜を ...