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15yubiwa_2007yubiwa_2007   14  Re:Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)

nagaikazu先生

 上告の争点が「国家無答責の原則」に関するものではなかったので、たしかに最高裁ではこの問題についての直接の判断は下していないとみるべきなのでしょうが、しかし高裁判決のこの部分は最高裁判決でもとくにコメントなしに引用されていますし、最高裁としては高裁の判断は妥当だとみなしていると考えていいのではないでしょうか。

 いえ、「国家無答責の原則」に関しては最高裁は何も判断していないので、この点について「最高裁としては高裁の判断は妥当だとみなしている」とまで解することはできません。

 そして、最高裁判決文には

所論の点に関する原審の判断は,以上のとおり,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070427165434.pdf

とあります。

 この「所論の点」とは国際条約による請求権放棄の問題のことで、「採用することができない」とした原審の「論旨」とは、日中共同声明ではなく1952年の日華平和条約で請求権が放棄されたとした点です。

 最高裁は、日中共同声明により日中戦争によって生じた被害についての中国国民の日本国・国民・法人に対する請求権は訴求権能を失ったので、日中共同声明に基づく請求権放棄の抗弁が主張されたときは当該請求は(その他の点を判断するまでもなく)棄却を免れないことになると判示したのです。

 従って、「国家無答責の原則」についての原審の判断の妥当性については何ら言及されていません。

 ともかく、この事件に対する高裁最高裁の判断で興味深いのは、「日本軍が女性を拉致して「性奴隷」としても、それは一部の兵士のしわざで、日本軍が組織としてやったのではない。だから日本政府に責任はない」という主張に対して、末端の部隊がおこなった不法行為であっても、日本政府には民法上の「使用者責任がある」と認定したことだと思われます。

 民法使用者責任の成立要件は、①使用関係の存在、②「事業の執行に付き」、③被用者の不法行為、④免責要件の不存在です。

 このうち、④は前回述べたようにほとんど問題になりません。最も問題となるのは②の「事業の執行に付き」に当るかどうかという点です。

 この点につき、今日の判例・学説は、使用者責任が問題となる事案を取引行為と事実行為に類型化し、事実行為についてはさらに危険物型(自動車事故型)と暴行型に類型化し、それぞれに判断基準を考えるとします。

 そして、本件のような女性を拉致して性奴隷にするといった暴行型の事実行為については「事業の執行行為を契機とし,これと密接な関連を有すると認められる行為」であるか否かという事業の執行行為との密接関連性が判断基準になるとされます。

 本件訴訟では(最高裁ではなく高裁ですが)、

本件加害行為は,上記のとおり,これに関与した旧日本軍兵士らの職務執行行為そのものに該当するとは認められないが,・・・旧日本軍の戦闘行為と密接な関連を有すると認められ,これによって控訴人郭らが被った損害は,被控訴人の被用者である旧日本軍兵士らが事業の執行につき加えた損害にあたるというべきである。

http://www.suopei.org/saiban/ianfu/second/hanketsu.html

と末端の兵士の不法行為日本国の事業の執行行為との密接関連性を有することが認められた点で意義があると思われます。

 なお、高裁の判断では

 従って、日本国憲法制定以前の国の不法行為について国家無答責の原則が適用され免責されるという一般論そのものは否定されていないので、この控訴審判決の論理だと、前線の兵士が勝手に作ったものではない、例えば「漢口慰安所」などだと「戦争行為・作戦活動自体又はこれに付随する行為」だとして国家責任が否定されることになりえます。

とのご指摘ですが、しかしそうであれば、軍の命令によって慰安婦の強制連行がおこなわれた場合には(というかその場合にのみ)、「国家無答責の原則」が適用され、国には責任がないことになります。秦氏や池田氏は、「軍の命令によって強制的に慰安婦が徴募された場合にのみ、国に責任が生じるのであり、そうでない場合には国に法的責任はない」と主張されていますが、高裁の判断では逆で、「国が責任を免れるのは、軍の命令によって強制連行を行った場合だけだ」ということになります。

 もっとも、上記の関連が成り立つには、軍慰安所が軍の組織の一部であり、軍慰安所の経営や慰安婦の募集を直接担当したのは、軍から業務を委託された業者であったという事実認識がかかせませんが。

 失礼しました。控訴審判決文を読み返すと、控訴審では、①末端の兵士が何らかの法令・規則又は軍の命令に基づいて行ったのではない、②本件行為が当時においてもへ一グ陸戦条約及ぴへ一グ陸戦規則等の国際法に反していたことが明らかな行為であった、の2点から本件では「国家無答責の原則」は適用されないと判断していますね。

 軍の命令によって慰安婦の強制連行がおこなわれた場合は、上記に①には当らずとも②には当りますので、その場合、この判決の論理だと「国家無答責の原則」は適用されるのか否か(つまり、①と②の両方を満たす場合のみ適用否定なのか、②だけでも適用否定なのか)は必ずしも明らかではないようです。

 いずれにせよ、ここで問題になっているのは「国家無答責の原則」によって免責される公務か否かという点ですので、秦氏や池田氏が言うところの「国の責任」ないしは「国の法的責任」の問題とは次元が異なると思われます。「国家無答責の原則」が適用されるのか否かの問題は、国家が損害賠償責任を負うのか、さらに言えば、裁判上訴求できるのか、という問題だと解されるのです。

返信2007/05/12 15:45:30