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yubiwa_2007
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Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
nagaikazu先生、はじめまして。yubiwa_2007と申します。
つまり、第2審の高裁は、この事案は「国家無答責の原則」に該当しないとみなし、それゆえ民法第715条の使用者責任により、日本国には損害賠償責任があると判断したわけです。ついでにいえば、民法第715条第1項には、但し書きがあって、「ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない」と、使用者責任が解除される条件も規定されていますが、高裁はこの事案の場合この但し書きが適用できるとは判断しなかったようです。
このように高裁は日本国には、日中双方の民法からして損害賠償責任があると認定したうえで、国際条約により戦時賠償についてすべての請求権がすでに放棄されているとして、原告の請求を棄却する判決を下したわけです。
この判決の論理構造は、今回の最高裁の判決でも維持されています。異なるのは、請求権の放棄の条約上の根拠を日華平和条約から日中共同声明に移し替えた点です。
よって、日本の裁判所は、この事案に関しては、「国家無答責の原則」は適用できないとの判断をくだしたわけであり、日本国には使用者責任に基づく損害賠償責任があると認定していることになります。
今回の中国人「慰安婦」第2次訴訟の最高裁判決では国家無答責の原則の適否については判断されていないようです。日中共同声明による個人請求権放棄により被害者の請求は棄却されると判断したもので、その他の法的問題については最高裁としての判断を行っていません。
なお、この事件の原審である控訴審(東京高裁)判決では、本件加害行為が「何らかの法令・規則又は軍の命令に基づいて行われたものではないし,非戦闘員(一般市民)であった控訴人郭らを連行して長期間監禁し,繰り返し性暴力を加えたという残虐非道なもので,当時においてもへ一グ陸戦条約及ぴへ一グ陸戦規則等の国際法に反していたことが明らかであり,戦争行為・作戦活動自体又はこれに付随する行為とはいえ」ないので「国の公権カの行使に当たるとは認められ」ず、従って国家無答責の原則は適用されないとされています。
つまり、この事件が前線の兵士が私的な慰安所を勝手に作ったものであるという事実認定を前提として、国家無答責の原則の適用場面ではないとしたものです。
従って、日本国憲法制定以前の国の不法行為について国家無答責の原則が適用され免責されるという一般論そのものは否定されていないので、この控訴審判決の論理だと、前線の兵士が勝手に作ったものではない、例えば「漢口慰安所」などだと「戦争行為・作戦活動自体又はこれに付随する行為」だとして国家責任が否定されることになりえます。
( もっとも、元々、国家無答責の原則が適用されるのは、警察・軍事・税務・収容などの公権力の行使に関するもので、国家の私経済的な活動の分野、あるいは公物・営造物の設置・管理の瑕疵に基づく損害については権力的作用から切り離された非権力的作用だとして、戦前においても損害賠償責任が判例上ある程度は肯定されていました。
慰安婦とされた女性の被害が国家の権力的作用によるものか、非権力的作用によるものかは解釈次第でしょう。)
http://www.suopei.org/saiban/ianfu/second/hanketsu.html
学説上は、国家無答責の原則の適用そのものを一般的に否定する見解が有力です。裁判例でも「公権力の行使が人間性を無視するような方法で行われ、損害が生じたような場合にまで、民事責任を追及できないとする解釈・運用は、著しく正義・公平に反する」あるいは「国家無答責の法理は現行法下では合理性・正当性を見いだしがたい」として、国家無答責の原則の適用そのものを一般論として否定したものが既にあります。
例えば、中国人強制連行・新潟訴訟の新潟地裁の判決などで、これについて「思考錯誤」掲示板に投稿したことがあります。↓
http://t-t-japan.com/bbs/article/t/tohoho/8/kfgqrf/index.html
国家無答責の原則の適否については下級審の判断はまちまちであり、最高裁によっては未だ判断されていないのが現状です。
なお、民法715条の使用者責任についてですが、使用者責任は他人(被用者)の不法行為責任についての代位責任であるとする考え方が今日の学説・判例では支配的で、事実上、無過失責任に近い運用がなされていると言われています。
従って、同条1項但書前段の「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき」との免責事由の存在は先ず認められません。(確か、免責が認められたのは、戦後の判例では1件もなく、戦前でもごくごく僅かしかないと思います。)
また、同但書後段の「相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」については、当然の事理を述べたものに過ぎず代位責任説のもとでは特に意味はないと学説の多くは考えており、現実に問題になることはほとんどありません。
いずれにせよ、715条1項但書の免責を認めなかったのは当り前なので、特筆するようなことではありません。
細かい話ですみません(^^ゞ
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12Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
yubiwa_2007
2007/05/01 13:36:27
nagaikazu先生、はじめまして。yubiwa_2007と申します。 つまり、第2審の高裁は、この事案は「国家無答責の原則」に該当しないとみなし、それゆえ民法第715条の使用者責任によ ...- └
14Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
nagaikazu
2007/05/12 09:08:15
yubiwa_2007さん、ご教示ありがとうございます。 お礼を申し上げるのが遅れましたことをお詫びします。 私は法学にはうといもので、ebizohさんとの議論があのまま続いていたら、ど ...- └
15Re:Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
yubiwa_2007
2007/05/12 15:45:30
nagaikazu先生 上告の争点が「国家無答責の原則」に関するものではなかったので、たしかに最高裁ではこの問題についての直接の判断は下していないとみるべきなのでしょうが、しかし高裁の判決 ...- └
16Re:Re:Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
yubiwa_2007
2007/05/31 19:40:50
「国家無答責の原則」について補足しておきます。 明治憲法下において「国家無答責の原則」によって、公権力行使に関わる国の不法行為についての国家責任が否定されていたといっても、それは訴訟レベルの ...
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16Re:Re:Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
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15Re:Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
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14Re:Re:Re:控訴棄却の理由(使用者責任の認定)
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